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思春期でこぼこ相談室 教えて大下先生! 母娘が幸せに生きるための12か条

【連載8】 眠りの乱れが思春期をタイヘンにする〈その2〉

更新日:2018/12/12

Q 学校の成績もよく、部活に塾に、ピアノのお稽古にとがんばっていたのですが、中2になってから、朝、ひとりで起きられなくなり、不登校に。しばらく休めばまたがんばれるだろうと思っていたのですが、あっという間に昼夜逆転。学校に戻れないのではと心配です。

A 過眠は体のSOS。脳が「これ以上はがんばれない」と、自身の防衛策としてスリープモードに切り替えたのです。お子さんが不登校になったのは大正解、休めてよかったですね。不登校の子どもと睡眠時間は関係が深いという研究もあります。まずは休息を第一に、そして、睡眠習慣の見直しから始めましょう。

 部活や塾、お稽古ごとなど、今の子どもは本当に多忙ですね。朝早くから夜遅くまで、大人顔負けの忙しさです。過密なスケジュールをこなすには、睡眠時間を削るしかないわけですが、前述したように思春期は大人よりずっと睡眠が必要な時期なのです。

 最近では、少しの睡眠不足でも、それが続くと借金のように積み重なって「睡眠負債」になり、心身にダメージを与えることがわかっています。最初は疲労感や倦怠感として現れ、微熱、腹痛、頭痛、不眠などの症状をともなうことも多いです。この段階でしっかり休息をとって、9時間睡眠を習慣づけられれば体調は改善しますが、そのまま睡眠不足を放置していると、脳が働かなくなり今度は過眠に転じます。朝起きられず、授業中に居眠りしたり、物忘れがひどくなったり、怪我をしやすくなったり、遅刻や早退が増えたり、ついには昼夜逆転して不登校になることはよくあります。

 過眠になるのは、体がSOSを送っているのに睡眠習慣を変えないから。脳が防衛策としてスリープモードに切り替えて、強制的に体を休めてくれているんですよ。慢性的な睡眠不足は、たとえるなら脳のコンピュータをずっとつけっぱなしにしているようなもの。放っておくと睡眠負債はどんどんたまり、やがて脳のコンピュータは熱暴走してクラッシュしてしまいます。実際、うつ病や統合失調症などの精神疾患の発症の背景には、必ず睡眠不足がみられます。だから不登校になったのは大正解なんですよ。
 このようにがんばりすぎた結果、学校に行けなくなり、親に連れられて受診する子どもはけっこういます。A子さんもそのひとりでした。

〝がんばりやさん〟A子さんのケース

 A子さんは中学受験を目指して、小学校の高学年から塾に通い、念願の志望校に合格。バドミントン部に入り、塾やピアノの稽古も続けていたのですが、だんだん朝が起きられなくなり、ゴールデンウィーク明けからまったく学校に行けなくなってしまいました。
 一週間どんな生活をしているのか聞いてみたところ、「部活が終わって家に帰って、食事をしたりお風呂に入ったりして宿題をしていると、夜の12時ぐらいになってしまう。塾やピアノの日は晩ごはんを食べる時間もなくパンをかじっていた」とのことでした。
 また、通学に片道1時間かかるため、朝6時に起きないと始業時間に間にあわない。毎朝、お母さんに無理やり起こしてもらって、朝ごはんも食べずに学校に行っていたそうです。これでは睡眠が足らず、体が拒否反応を示すのも当然です。

 中学1年生なら9~10時間は睡眠時間をとらなければならず、そのためには夜9時に寝るような生活をしなければならないよ、と伝えたのですが、「宿題が多いのでやるのに時間がかかる。塾に行かないと授業についていけない。ピアノも小学校からやっていたのでやめたくない。部活もみんながやっているので続けたい」と言い張ります。
 小学校まではがんばればなんとかなってきたという自負もあるし、また親が喜び、さらに期待するので、それに応えたい、がんばりたい、という思いがあったのでしょう。

 まずは、「睡眠をおろそかにしてはいけない。思春期に睡眠が足りないと脳の発達が妨げられる。不登校になったのは脳を守るために体が拒否反応を起こしているからで、無理やりこれまでの生活を続けていると精神病になるかもしれないし、それ以上に心疾患などで突然死を起こすかもしれませんよ」と医学的なリスクをきちんと伝えました。
 そのうえで、「やりたいことはたくさんあるかもしれないけどすべてはできないから、優先順位をつけないといけない。ピアニストを目指したいのなら、ピアノを最優先にすべきだし、バドミントンでオリンピックを目指すのなら部活を最優先にすべきだけど、あなたはどうしたいの?」と本人に聞いてみたのです。すると、バドミントンもピアノもそこまで上手いわけではない、勉強も授業についていけたらよい、とのことでした。
 13~15歳の子が片道1時間もかけて電車通学すること自体、本来、無理があります。転校という選択肢もあったのですが、〝がんばって入った学校なので通い続けたい〟という本人の意思がはっきりしていました。

 彼女のようながんばりやさん、サボることの苦手な子どもに私が伝えるのは〝ナマケモノのススメ〟です。一日20時間は寝るといわれるナマケモノのように必要な睡眠と食事のために、生活のなかの優先順位をもう一度考え直して、リストラできるものはしちゃいましょう、と提案します。
「睡眠時間をまず最低8時間確保。3食食べる。塾に行っても学校で寝ていたら意味がないし、部活だってもっと気楽な部活に入ればよい。なんなら帰宅部でもよい。家でも省けるものは省いてみよう。ピアノは弾きたくなったらまたやればいい。お風呂なんか3日に1回に減らしても健康に害はないよ、最優先は健康な体を作ることだよ」と伝えました。
 その結果、ピアノと塾はやめ、部活も美術部に変え、なんとか8時間は睡眠がとれるようになったら、元気が戻って学校に通えるようになりました。思春期女子としては、お風呂の優先順位は高かったみたいで、入浴は毎日欠かさなかったようです。

 お母さんには「娘が健康に育ってくれるのが最優先ですよね」と念押ししておきました。お母さんからも、「子どもに期待をかけすぎてしまったかもしれない。そのせいで期待に応えようとがんばりすぎたのだと思う。一番大切なのはこの子の健康なのに」という言葉が語られました。〝勉強よりなにより子どもが健康に育ってくれればよい〟という本来の親の気持ちになってくれたのがよかったのだと思います。

 このように、不登校の子どもに睡眠不足の子が多いことは、さまざまな調査で報告されています。睡眠と不登校の研究に取り組む熊本大名誉教授の三池輝久医師が、2007年から福井県若狭町の小学校4~6年生の入眠時刻を調査したところ、中学進学後に不登校の割合が高くなる小学校では、22時以降に入眠する児童は42%もいましたが、不登校ゼロの小学校では6%でした。
 そこで若狭町では、三池医師の指導のもと、小学校で子どもの睡眠リズムを整える「眠育」を導入。子どもたちに、眠っていた時間と起きていた時間を記録する睡眠時間記録表をつけさせ、毎日同じ時間に寝起きしているか、9時間の睡眠を確保しているかなどを指導しました。それが生活リズムを見直すきっかけとなり、自分の行動を律することができる子どもが増えたそうです。
 また、保護者とも面談し、「子どもの夜更かしの習慣は大人たちが作っている」と伝えて理解と協力を求めた結果、午後8時以降はテレビを見せない家庭が増えるなど、保護者の睡眠に対する意識も向上。眠育開始から6年目には、22時以降の入眠が42%だった小学校も8%にまで減らし、中学進学後の不登校がゼロになりました。今後、このような取り組みが全国で増えていくと思います。

Q 高校受験のプレッシャーから、早く寝かしつけても眠れないという娘。眠れないことがさらにストレスになっているようで、最近では睡眠薬をほしがるのですが、依存性はないのでしょうか? メラトニンのサプリや市販の睡眠薬なら比較的安心でしょうか? 

A 安易な睡眠薬の使用は危険です。私は基本的に大人にも睡眠薬はおすすめしません。女性ホルモンの影響で思春期の女性は不眠になりやすいという調査結果もあります。成長過程の一時的なものとして、まずは腹式呼吸をもちいたリラクゼーション法を身につけたり、眠りやすくなるように生活サイクルを整えて。

 思春期の少女は、初潮が始まると同時に不眠症になることがよくあるんですね。女性のほうが男性よりも不眠症になりやすいという調査結果もあります。これは女性ホルモンの変化によるもので、成長過程では自然なことだと理解してください。
 私は基本的に、睡眠薬は子どもにはもちろん、大人にもおすすめしません。現在広く使われているベンゾジアゼピン受容体作動薬(以下、ベンゾジアゼピン系)の睡眠薬は依存形成のリスクがあるため、緊急時以外には使用しないというのが専門医の意見です。

 睡眠薬について少し解説しましょう。
 ベンゾジアゼピン系の睡眠薬・抗不安薬は日本では1960年代に使われるようになりましたが、それまで使われていた強力な鎮静効果があるバルビツール酸系より安全性が高いことから、広く使われるようになりました。ところが、薬の効果が次第に弱くなり使用量が増えていく「耐性」や「身体依存」の形成、指示通り服用していても依存が生じる「常用量依存」など、当初は否定されていた問題が続出し、安全な使い方について議論されているところです。2017年3月には、厚生労働省から漠然とした継続投与による長期使用を避けるよう注意喚起がなされました。
 いったん依存が形成されると、薬の中止や減量をするときに、不眠、不安、焦燥感、頭痛、嘔気・嘔吐、せん妄(意識が混濁し幻覚や妄想などが生じる)、振戦(ふるえ)、痙攣発作などの離脱症状が現れるので、なかなかやめられなくなります。安易な睡眠薬の使用は非常に危険です。

 また、子どもに睡眠薬を飲ませた時に、逆に目が冴えたり、テンションが上がったりするなどの奇異反応を起こすことがしばしばあります。これは、子どもは前頭葉などの抑制系の脳の発達が十分でないので、そこの部分が薬によって眠ってしまい、興奮系が活発化してしまうためだと考えられます。
 最近、メラトニンやオレキシンといった、睡眠に関係する生理的物質を調整する、新しいタイプの睡眠薬が出てきました。理論的には自然な眠気をもたらすようでよさそうなのですが、実際に使ってみると翌日に眠気が残ることも多く、評価はまだまだこれからです。
 メラトニンは睡眠リズムの異常には一定の効果があり、アメリカではサプリメントでとるのがポピュラーですが、一般的な不眠には効果が乏しいようです。また、長期的に服用すると、体本来のメラトニン生成が抑制されるリスクもあります。その他の睡眠サプリメントも効果は限定的で、長期的な安全性はほとんど検証されていません。

 医師の処方箋がなくてもドラッグストアなどで買える市販の睡眠薬がありますが、これもおすすめできません。風邪薬やアレルギー治療薬の副作用の眠気を利用したものでほとんどが抗ヒスタミン薬ですが、これらの薬は不眠症を対象とした臨床試験で、長期的な効果と安全性が確認されていません。注意書きに、「一時的な不眠に使用すること」「不眠症の診断を受けた人は使用しないこと」と書いてあります。抗ヒスタミン作用は耐性が形成されやすいので、連用するとどんどん飲む量が増えていきます。
 さて、このお子さんは高校受験のプレッシャーから眠れないといっているようですが、緊張して眠れないのであれば、睡眠薬よりリラクゼーション法を身につけるほうがよいでしょう。いろいろな方法がありますが、腹式呼吸を用いた簡単な瞑想法をお教えしますね。

〈安眠のための瞑想法〉
 照明を落とした静かな寝室で、パジャマを着てそのまま寝られる状態で行います。

  • ① 布団の上に仰向けに寝ます。両足は肩幅くらいに、腕も脇の下にこぶしひとつ入るくらい自然に開いて、手のひらは天井に向けます。手足の力を抜いてだらっと脱力します。ヨガでいう「屍(しかばね)のポーズ」です。
  • ② 鼻から息をゆっくり吸いながら頭のなかで「いち、にー、さん」とカウント。
  • ③ 息を止めて「いち、にー」。
  • ④ 息を少しずつゆっくり吐きながら「いち、にー、さん、しー、ごぉ」とカウント。これを4セット行います。

 鼻の両穴から上唇の真ん中を結んだ三角形に、自分の呼吸する空気が触れていることに意識を集中させます。慣れてくると、頭で数えるのではなく自然なリズムが身について、より呼吸に意識を向けられます。呼吸を自ら調整するのではなく、ただ単に自然な呼吸を感じるのです。
 たったこれだけのことで自律神経のバランスが整い、心拍数が減少し、リラックスして眠りに入りやすくなります。

 睡眠薬にも、リラックスを促す抗不安作用や筋弛緩作用がありますが、残念ながら、記憶の定着を阻害する作用も報告されているんですよ。脳に記憶させたい知識が消えてしまう薬なんて、受験生にとってはそれこそ悪夢。絶対飲みたくないでしょ?

 記憶と睡眠についてちょっとだけ説明しますね。
 近年、勉強した知識を脳に定着させるのに、睡眠が重要な役割を果たしていることがわかってきました。睡眠にはノンレム睡眠(深い睡眠)とレム睡眠(夢を見ている浅い睡眠)があり交互に出現していますが、記憶をつかさどる脳の海馬に記憶したものを刷り込むには、どちらの睡眠も必要なんです。長期的記憶をきちんと保持しようと思ったら、勉強した後に、ノンレム睡眠とレム睡眠が十分に出現する睡眠をとらなければいけないってことです。中学生なら最低8時間は眠らないとダメ。寝ることも勉強の一部と考えてください。

〝緊張して勉強も手につかない〟〝緊張して試験の時に頭が真っ白になって頭が回らない〟ほど不安焦燥が強いなら、不安に対する治療として認知行動療法や薬物療法などがあります。併用することが多いのですが、薬を使う場合でも、ベンゾジアゼピン系の抗不安薬は使用しないほうがよいと思います。私は不安障害に適応のあるSSRI(選択的セロトニン再取り込み阻害薬)の中で未成年における有効性が認められている薬を、少量から慎重に試しています。
 何度もいいますが、私は基本的には睡眠薬をおすすめしません。まずは眠りやすくなるように、生活を見直してみましょう。

〈安眠のための8か条〉

  • 1 睡眠覚醒リズムを整えるために、起床時刻は一定に。朝起きたら日光を浴びる。
  • 2 朝ごはんを食べる。規則正しい食生活は重要。栄養のバランスも重要。
  • 3 寝る前には食べない、水分を取りすぎない。就寝の4時間前からカフェインや油や糖分の高いものをとらない。
  • 4 お風呂はゆったり湯船に浸かりリラックス。寝る1時間前には入っておく。
  • 5 一日に1時間程度の適度な有酸素運動を習慣づける。ただし眠る4時間以上前に行う。
  • 6 次の日の「やることリスト」を夕方のうちに書き出し、ベッドに入る前に気がかりなことを整理しておく。
  • 7 思春期になったら、きょうだいとは別の部屋で眠る。ベッドルームはほどよく涼しく、暗く、静かに。寝るための快適な環境作りを。
  • 8 寝室は寝るためだけの部屋。ゲームやスマホなど刺激となるものを寝室に置かない。寝る前には、テレビ、ゲーム、パソコン、スマホなどから離れて、読書や瞑想など30分ほど「落ち着いた時間」を作ることを習慣に。

構成/石丸久美子
漫画/はるな檸檬

著者情報

大下隆司(おおしも たかし)

精神科医。代々木の森診療所院長、神戸国際大学保健センター・特命教授、東京女子医大病院心身医療科児童思春期外来・非常勤講師、NPO法人メンタルケア協議会副理事長。
高校時代、学園紛争に身を投じ命を絶った女子大生・高野悦子の日記『二十歳の原点』(新潮社)を読んで感銘を受け、著者の母校である立命館大学の理工学部数学科に入学。学生運動に参加するつもりが、すでに運動は下火に。何をしていいかわからないままフラフラ留年。24歳で卒業後は、親の勧めで地元の市役所に就職するも、退屈して半年で退職。友人の紹介で高校講師に、1年後、京都市の教員試験に合格し晴れて中学校の数学教師になる。ときは校内暴力全盛期の頃、中学教師をしながら、山中康裕に師事しカウンセリングの勉強をスタート。29歳で教師を退職し、神戸大学医学部に再入学。中井久夫に師事し精神科医となる。
神戸大学病院、都立墨東病院、明石土山病院、兵庫県こども家庭センター、東京女子医科大学勤務を経て現職。
専門は、臨床精神薬理、心理教育、児童青年精神医学。
認定資格等:精神保健指定医、精神科専門医、産業医、臨床心理士。
「振り返れば中途半端なことばかり。大人になっても思春期の延長のような青臭さをひきずって、周りの人たちにたくさん迷惑をかけてきました。そんなハンパな自分だからこそ、できることもあるのではと、罪滅ぼしのような気持ちでやってます、ハイ。子どもと同時に親の悩みも聞き、教師の悩みも聞き、みんなが成長できるように関わることをこころがけ、その中で私も成長していければいいなと思っています」

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