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Shueishagakugei

謹んで「熊本地震」災害のお見舞いを申し上げます。

熊本地震により甚大な被害が発生いたしました。
お亡くなりになられた方々のご冥福をお祈りいたしますとともに、
被災された皆様に心よりお見舞い申し上げます。
一日も早く平穏な日々が戻りますよう、そして復旧がなされますよう心よりお祈り申し上げます。

(株)集英社

  • 集英社・熊本地震災害被災者支援募金のお知らせ

謹んで地震災害のお見舞いを
申し上げます。

東日本大震災により被災された皆様に、心からお見舞い申し上げます。
また、被災地等におきまして、救援や復興支援など様々な活動に全力を尽くしていらっしゃる方々に、深く敬意と感謝の意を表しますとともに、一日も早く復旧がなされますよう心よりお祈り申し上げます。

(株)集英社

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Nonfiction

読み物

ペルパタオ −我歩く、故に我あり 茂木健一郎

第25回 [2017年1月某日 雑木林を歩く]

更新日:2017/02/22

 最近は、日本の教育、とりわけ大学についていろいろなことが言われている。
 グローバル化の中で、今までのやり方では足りないのではないか、もっと違う方法を探る必要があるのではないかという議論がある。確かに、すべてが現状で良いわけではないだろう。
 イギリスの高等教育情報誌、『タイムズ・ハイアー・エデュケーション』が発表する世界大学ランキングでも、上位を占めているのはほとんどが英国や米国の大学であり、東京大学を始めとする日本の大学の順位は必ずしも高くない。アジアの中での地位も低下している。
 今までは日本の中での難関大学ということで評価されてきたが、これからはグローバルな文脈の中で輝くことが求められている。そのプロセスの中で、日本の大学に関わる人たちが厳しい自己認識、そして魂の希求を求められていることは事実なのだろう。
 一方で、私はこうも思う。すべて、英米のいわゆる「トップ大学」のやり方に合わせて、それを模倣することだけが真の道であるはずもないと。
 タイムズ・ハイアー・エデュケーションの世界大学ランキングのトップ10は、いわば「モノカルチャー」の世界である。一部を除いて、すべては英語を基礎とした教育・研究を行っている。そのような点をとらえて、日本の大学でも英語教育を充実させるべきだという主張も根強い。
 しかし、冷静に考えてみれば、世界に数千あると言われている言語の中で、英語だけが優れているはずがない。たとえ、実際に英語が世界の中で流通しているという実際的な側面から英語教育に力を入れるという選択をするにせよ、そもそも英語を使うということ自体に過大な意味を求めるべきではない。
 実際的な意味で英語を用いるということはあったとしても、それが進んで英語中心主義、英語唯一主義、さらには英語崇拝に至ってしまっては、そもそも知の府としての大学としては肝心の健全なる懐疑や批判的思考を失ってしまっていることになる。本当に必要なことは、実際的態度として英語を修めつつ、むしろ多用な言語文化に対する尊重の気持ちを育むことであろう。もちろん、自らの言語文化を大切にして、それを発展させる気概も含めて。
 タイムズ・ハイアー・エデュケーションの発表するランキングで注目すべきは、トップ10よりも、むしろさらに下位の大学を含めたランキングであろう。
 トップ800大学が、どこに分布しているかを世界地図の上で示した図がある。それを見ると、世界の「卓越性の中心」が、英米だけでなく、世界の各地に分布し始めているという傾向がわかる。
 アジアで言えば、日本、中国、韓国、台湾、シンガポール、インド、タイ、マレーシア、インドネシアなどの国々。ヨーロッパはもちろん、アフリカにも、オセアニアにも、南米にも、ロシア、中東にも卓越性の中心がある。トップ10大学だけを見ていると、あたかも英米だけが卓越した学問を独占しているように見える。一方、トップ800大学の地図が示すのは、真の意味でのグローバル化の傾向であり、その背後にある文化の多様性である。
 モノカルチャーのトップ10と、多様性のトップ800。どちらが今日の世界の現実を表しているだろうか。そして、未来に通じるのはどちらの傾向か。
 答えは自ずから明らかであるように私には思われる。
 言語の多様性については、人工知能研究の今後の発展でそれを取り囲む状況に劇的な変化が起こる可能性が高い。
 Googleが先日改善版を発表した自動翻訳「Google翻訳」のサービスは、世界の103の言語に対応している。英語やフランス語、スペイン語、中国語、アラビア語といった主要言語はもちろん、ハワイ語、クルド語、チュワ語、モンゴル語、タミール語、グジャラート語など、さまざまな言語がカバーされている。
 約一億二千万の話者がいる日本語は、むしろメジャーな言語のうちに属すると言えるだろう。それくらい、Google翻訳の提供言語から見えてくる世界のあり方は多様であり、そこには真の意味の「ロングテール」がある。
 これからの世界に必要なのは、すべてを英語で、というようなモノカルチャーの感性ではなく、世界が万華鏡のような多様な世界であるということを認識し、それを尊重する態度であろう。
 先日、雑木林の中を歩きながら以上のようなことを考えた。
 スギなどの単一の樹種が植えられた林よりも、さまざまな種類の樹や、下草が生えた雑木林を歩くことは心地よい。自然はもともと多様であり、その中でさまざまな生きものがそれぞれのニッチの中に息づいている。そのような自然のありさまに触れて経験値を高めておくことは、多様性の尊重に資するだろう。
 何よりも、自分自身の内なる多様性に気づき、耳を澄ませることは、よき人になり、充実した人生を送るために、どうしても不可欠な素養であると感じられる。
 自分の内なる多様性を育むためにも、雑木林を歩くと良い。自分の心の中にさまざまなふしぎな植物が生えてくる明日のために。

著者情報

茂木 健一郎 (もぎ けんいちろう)

1962年東京生まれ。東京大学大学院理学系研究科物理学専攻課程修了。理学博士。脳科学者。理化学研究所、ケンブリッジ大学を経てソニーコンピュータサイエンス研究所シニアリサーチャー。「クオリア」(感覚の質感)をキーワードに脳と心の関係を研究するとともに、評論、小説などにも取り組む。2005年『脳と仮想』(新潮社)で第4回小林秀雄賞を受賞。2009年『今、ここからすべての場所へ』(筑摩書房)で第12回桑原武夫学芸賞を受賞。近著に『生命と偶有性』(新潮選書)、『東京藝大物語』(講談社)、『記憶の森を育てる 意識と人工知能』(集英社)ほか多数。

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