〈 刊行記念インタビュー 〉

『家事しない主婦と三世代の食卓』

桜沢エリカ

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桜沢エリカ(著者)さん

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青木武紀(ご主人)さん

「誰かのために料理を作る」っていうことが苦手意識を克服するコツじゃないかな
(桜沢さん)

何でもいいからひと言、作ったものに対して反応があれば、やっぱり嬉しい
(青木さん)

漫画家・桜沢エリカさんのお宅では、ご主人・青木武紀さんがずっと家事担当でしたが、子どもたちが成長し、ご主人が働き始め、桜沢さんもたまに料理をするように。
桜沢さんのお母さんもときどきご飯を作りに来てくれたり、にぎやかな一家の食卓をレシピとともに紹介するコミックエッセイ『家事しない主婦と三世代の食卓』刊行を記念して、本に登場する料理を一部ご紹介しつつ、ご夫婦インタビューをお届けします。

──コロナ禍で、食生活に変化はありましたか?

青木
「基本的に外食はほぼなくて、月に一度ほど知り合いの焼肉屋さんに行くか、お誕生日に焼肉食べに行くくらいだよね。いつも焼肉(笑)。家族と食卓を囲む時間を大事にしています。コロナになったからといって、特段変わったことはないですね」
桜沢
「子どもたちもそれぞれのつき合いがあるので、最近は、夫婦しかいない夕飯も増えたよね」
青木
「簡単なもので済まそうとか言いながら、子どもが食べなさそうな精進料理みたいなものを作っています。とろろをかけて、質素な感じとか(笑)」

──結婚される前から、お料理をしていましたか?

青木
「ひとり暮らしのときはなるべく節約ということで、簡単な炒め物などを作っていました。本格的に作り始めたのは、エリカとつき合ってからです。一緒に作りながら、いろいろ教えてくれたんですよ。花板(※料理長)はもちろんエリカ。最後のいいところを持っていくのは彼女で、僕は切る専門(笑)。結婚して子どもが生まれてからは、逆転した感じかな」
桜沢
「私がひとり暮らしのときは、ご飯を土鍋で炊いてみるとか、かつおぶしと昆布で出汁を取って味噌汁を作ってみるとか。そういうのを楽しくやっていました。今では夫のほうがぜんぜん上手です」

──レシピ本を参考にすることは?

青木
「そのときどきの料理界で有名な人の本を買ってみたり、好きな作家さんの本はけっこう揃えました」
桜沢
「分とく山の料理長の野崎洋光さんのレシピも、すっごくハマったな」
青木
「小林カツ代さんの、和食を軽くアレンジした感じが好きでしたね。土井勝さんの本を読んでいると、和食って意外と簡単なんだなと思えてきて、家庭料理を作るうえで勉強になりました。今は、スマホでググれば、自分の家庭に近い食材や調味料のレシピが結構出てきますから、近い嗜好の人を発見しやすい土壌ができていると思います。その通りに作ることもあれば、『油を0.5さじ減らそう』『醤油を0.5さじ足そう』とアレンジすることもあって、それが我が家のベースになっていきます。やっぱり調味料が全てだと思っていて、醤油、酒、みりん、砂糖、塩は、昔ながらの美味しいものを使っています。僕の場合、大さじ小さじという基準となる分量の目安がないと、ちょっと不安になっちゃいますが、エリカは、わりと適当にザーッって入れちゃう(笑)」
桜沢
「はい。濃かったら洗えばいいし、薄かったら足せるし」
青木
「『えーっ、洗うのかよ!?』って驚きました(笑)」

──『家事しない主婦と三世代の食卓』に登場するメニューで、特に思い入れの深いものは?

桜沢
桜沢「なんだろう……普段食べている定番ばっかりだからなぁ」
青木
「僕はひなまつりのちらし寿司や、クリスマスのローストチキンかな。毎年作るので今年はそこに何を足そうか、ってなったり、年々美味しくなっているよ(笑)。特に、ちらし寿司の具材はどんどん増えてきています」
桜沢
「私、飯台があったらいいなぁって毎年、思うんですよね」
青木
「赤ちゃんの生湯のタライみたいな大きさの?」
桜沢
「そうそう」

ケチャップを使わず薄切り肉で作る「バーバの酢豚」

──青木さんがお料理で大失敗したことはありますか?

青木
「……たぶんなかったよね?」
桜沢
「うん。失敗するような大作は作らない。そういえばこの間も、かぼちゃの煮物を自分で作ろうと思って、かぼちゃを出しておいたの。だけどしばらく作っていなかったから、どうするんだったっけなぁと思って放置していたら、ちょうど夫が帰ってきて、『食べたい』って言ったらパーッと作ってくれたんです。すごく美味しかったです」
青木
「実は最近、頭にきてもうお料理をしたくない!と思ったことが1回あります(笑)。疲れて帰ってきたら、部屋が真っ暗のうえ、ものすごく暑かったんです。誰もいないのかなと思って部屋を覗いたら、エリカたちがテレビを見ていたんですよ、だらーっと……。疲れて帰ってきてそれを見てカチンときて、『こんなだらしのない人たちに、もうご飯を作りたくないっ!』って(笑)」
桜沢
「夫はそのままふて寝しちゃったので、しかたないから、私は娘と2人で何か作って食べたような気がするなぁ」
青木
「普段はありがたいことに、『これ美味しいね』『ちょっとしょっぱいね』とみんなちゃんと料理に対する感想を言ってくれるんです。何でもいいからひと言、作ったものに対して反応があれば、やっぱり嬉しいですよね。うちの兄貴は何も言わずに食べて、食べ終えるとそのまま部屋に帰ってしまうようなタイプで、その姿を見て僕は育ったので、なおさらそう思うんです」
桜沢
「家の雰囲気もあるんじゃない?家族全員が『美味しいね』って言い合う家だったら、みんな自然と言うようになるけど、言わない家だったんじゃないかな。だから、みんなでそろってちゃんと『いただきます』と言って、『美味しいね』とかそういう話題が出るのは、いいことですよね」
青木
「うちは本当に食卓がうるさいんです(笑)。だれかずっとしゃべっているからね」
桜沢
「なんとなく、ご飯のときにその日の報告をする感じになっているから、食べながら話すことが多いかな」
青木
「娘なんか、自分がしゃべりたいときなのにお兄ちゃんがしゃべり出したりすると、ふてくされちゃう」
桜沢
「で、私だけご飯に集中したいから、別にしゃべらない」
青木
「エリカはスルースキルがすごいからね(笑)。『うんうん』って相槌打ちながら、聞いていないですから(笑)」
桜沢
「だから食べる時間は長いというか、家族全員がそろってしゃべっているときは、みんなずっと食卓にいる感じだよね」
青木
「そうだね。やっぱり、父親や母親が外で働いていると帰りが遅くなることも多いので、家族で毎日、団欒することってなかなか少ないじゃないですか。でもうちの場合は、子どもたちが小さいときからお父さん(僕)がずっと家にいるから、家族で食卓を囲むのは当たり前のこととして育っているかもしれないです」

冷蔵庫の残り物で作った「息子の創作パスタ」

──お子さんが小さい頃、まだ「主夫」は少なかったと思いますが、周囲の反応はいかがでしたか?

青木
「20年ほど前、ちょうど『主夫』という言葉が出始めてた頃だったので、『そういう家庭もあるよね』って感じでみなさん、すんなり受け入れてくれました。ママ友もすぐできました」
桜沢
「でもね、ママ友の間で夫は『キレイなお母さんとしかしゃべらない』って冗談で言われていたらしく、他のお母さんから『青木さんって、キレイなお母さんとしかしゃべりませんよね』って言われたとき、夫は『いや、そんなことないですよ。現にあなたともしゃべっているじゃないですか』って言ったんだって……」
青木
「今は笑い話ですけど、そのときは冷や汗ものですよ。もちろん変な意味で言ったわけではなく……もっと慎重に言葉を選ぶべきでした(苦笑)」

──ご夫婦の役割分担は、結婚後すんなり決まったんですか?

桜沢
「いや、別に何も決めずに始めたよね。『あなたはこれね、私はこれやるから』とすると、やらなかったときに『どうしてやらなかったの!?』って責めちゃうでしょう。だからなるべく役割は決めずに、自然にいくのが望ましいと思っています。そうすると、いつも相手に気を遣って考えて暮らしていかなきゃいけないので大変なんですけど、そのなかで自然にいい関係を作っていけたらいいかなって」
青木
「そうだね。コミュニケーションがいつも必要になるよね」
桜沢
「だからゴミ一つ出すにしても、『今日持ってく?』『出しとくね』みたいな話をして、お互いに声をかけ合うところからやっていきたかったんです。夫が料理を作るのも、初めから決めていたというよりも、子どもを産んだときに……ええと、なんて言ってくれたんだっけ?」
青木
「『母乳はあげられないけど、あとはできるよ』みたいなことだったかな」
桜沢
「そうだったね。最初は私も、結婚する前は奥さんみたいなことをやりたくて、ご飯を作っていたんですけど、そのうちちょっと飽きてしまって(笑)。その頃、ちょうど流行っていたネイルにはまりまして、『スカルプチャーっていう長いつけ爪をつけたいんだけど、つけたらお米もとげないし、何もできなくなるけどいいかな?』って夫に聞いたたら『いいよ』って(笑)。そのくらいから、夫に料理を任せるようになりました」
青木
「だって、つける気満々だったじゃない」
桜沢
「……缶も開けられないけどいい?って(笑)」
青木
「そこでダメだなんて、言えないよ!(笑)」
桜沢
「そんな感じだったよね〜」
青木
「あとは、何やるにも僕のほうが速いので、自分が楽なんです。エリカはのんびりやだから、まだできないのって思っちゃう。だったら僕が作るよ、みたいな」

バレンタインの定番「娘のチョコカップケーキ」

桜沢
「夫はキッチンカーの仕事をしているんですが、休日にイベントが入って始発で出勤しなきゃいけないときに、私の原稿の締め切りが重なって、夜ご飯どうしようかと思っていたんです。そしたら夫が、『朝、カレー作っておくわ』って言うんですよ。始発で出るのにですよ?だから、娘にこっそり『明日パパが早くて、ママも仕事なんだけど、カレーに挑戦してみない?』って言ったんです。娘は『えーっ、うち作れるかなぁ』と言うから、『大丈夫だよ!きっと上手に作れるよ!』って励ましてやらせたんです。それが、娘の初カレーでした」
青木
「写メ送ってきましたよ。できたよ〜って」
桜沢
「そんなふうに、夫は頑張っちゃうタイプ」
青木
「やっぱり、エリカには仕事に集中させてあげたいじゃないですか。一番困っちゃうのが、お腹が空いたときに食べるものが何もないということですから、ご飯で困らないようにしてあげたいんですよ。あとね、エリカは、食材の値段について何にも知らないんです。最近、もやしが値上がりした話をしたら『もやしって、そもそもいくらなの?』って。カップラーメンの値段だって知らないんじゃないかな」
桜沢
「いや、買い物は行くけど、値段を見ないのよ」
青木
「……見ない!?普通見るでしょ(笑)。普通見るし、選ぶよ(笑)」
桜沢
「まあ、お肉は値段が高いから見るけど」
青木
「僕の場合、これはこっちのほうが安いってスーパーをはしごするんですけど、エリカはまったくしないです。成城石井だったら、そこで終結。明治屋に行っても『手に取ったものは全部いいものだから楽だわ』とか言って、値段を見ないでカゴにポンポン入れていくわけです。まあね、いい時間の使い方だけどね(笑)」
桜沢
「……というかね、前は広尾に住んでいたから、近くに安いスーパーがなかったんです。だいたいどこも同じような高い値段なのが普通だったの。でも引っ越した先ではいろいろなスーパーがあるから、最初はびっくりしちゃった。端から端までアイスの棚があったり、こんな大きいウィスキーの瓶があったり……」
青木
「それが普通なんだよ〜(笑)」

──お料理が苦手な人が、楽しく作るにはどうしたらいいと思いますか?

青木
「今はレンチンでなんでも美味しいものができますから、別に作らなくてもいいんですよね。ただ、やっぱり作ったほうがお金の節約になります。まずはキャベツやもやしなど安い野菜を買ってみて、自分好みのレシピがないか検索して、節約を楽しんでみるのはどうでしょうか」
桜沢
「私も娘がいたら『しょうがないから、あれ作ろうか』ってなるけど、ひとりだったらケンタッキーに走っちゃう(笑)。節約だけじゃなくて、もしかしたら、『誰かのために料理を作る』っていうことが、苦手意識を克服するコツじゃないかな」
青木
「料理を教えてもらうのもいいよね」
桜沢
「料理上手な友達と一緒に作って食べるっていうのも、いいかもしれないです」
青木
「僕もひとりだったら作らないです。好きな人が横にいて、その人のために作ることが大事なんだろうね」
桜沢
「その誰かは、恋人でも、友達でも、きょうだいでもいい」

──最後に読者のみなさんに向けてひと言お願いします。

桜沢
「書籍では、うちのレシピをプロの人が作り直してくれて、その写真がまた本当に素敵なんです。連載の記事も『OurAge』のサイトに当面残りますから、私が作ったものの写真と見比べられますよ」
青木
「(本をめくりながら)すごい!うちのエビシューマイ、こんなふうに盛りつけするんだ。へぇ〜、さっそくやってみよう(笑)」
桜沢
「逆輸入したくなるよね(笑)。我が家の日常のレシピだから、最初はこんなの紹介していいのかなぁって心配だったんですけど、今となってはいいものができたなと思います」

構成・えいとえふ 撮影・冨永智子(人物)徳山喜行(料理)

著者プロフィール

桜沢エリカ(さくらざわ・えりか)〈右〉

7月8日東京生まれ。漫画家。10代でデビュー以来、多方面で活躍中。『メイキン・ハッピィ』『エデン』『スタアの時代~追憶のワルツ編』『こまどりの詩』などストーリー漫画を描く一方で『シッポがともだち』『今日もお天気』などエッセイ漫画にも定評がある。趣味は着物でお出かけ、バレエ鑑賞。「officeYOU」で『恋はお金じゃ買えません』を連載。
オフィシャルブログ「ちょっとお茶でも」https://ameblo.jp/erica-sakurazawa/

青木武紀(あおき・たけのり)〈左〉

桜沢さんと結婚後、専業主夫に。子どもたちが大きくなり、ここ数年はキッチンカーで働く。

『家事しない主婦と三世代の食卓』

桜沢エリカ

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