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女優 森光子

女優 森光子 


著者 : 森 光子

  • 判型 : A4判
  • 頁数 : 160ページ
  • ISBN : 978-4-08-781388-3
  • 価格 : 本体3,000円+税
  • 発売日 : 2009年01月26日

偉業へ向かう女優・森光子。激動の生涯を初公開の戦地慰問の写真も交えて綴る! 鬼気迫る「放浪記」の舞台を、初めて楽屋まで篠山紀信が激撮。勘三郎、王貞治、吉永小百合ほか各界からのメッセージも満載!

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第八章 放浪記

 昭和三十三年七月、梅田コマ劇場でのことだった。中田ダイマル・ラケットとトリオを組んだ『あまから人生』という舞台をたまたま大阪にいた菊田一夫が目にした。
 そのころの菊田一夫といえば『君の名は』『鐘の鳴る丘」で知られた人気劇作家にして東宝演劇部の総帥であり、川口松太郎、北條秀司、中野実とならぶ演劇界の四天王とたてまつられていた。森さんにとっては、まさに雲上の人である。
 翌月公演の打ち合わせで梅田コマ劇場に出張していた菊田は仕事を終え、あわただしく飛行機で帰るところだった。空港へ向かうハイヤーの到着が遅れ、時間つぶしに三分間だけ客席の後ろから舞台を遠望した。
 折しも森さんの出番だった。焼け跡の防空壕に住む女が洗濯物を干す。台本には「ここ八分よろしく」とあるだけの、アドリブでもたせる場面だった。
「オーイ、船方さーん」「お月さん、今晩は」「有楽町で……」「俺は待ってるぜ」
 三波春夫の「船方さんよ」、藤島桓夫の「お月さん今晩は」、フランク永井の「有楽町で逢いましょう」、石原裕次郎の「俺は待ってるぜ」と、誰知らぬとてない流行歌をとっさにつないで歌ったら、客席がどっと沸いた。
 興味をひかれた菊田一夫は劇場支配人に、「年は十七、八?」
 と聞き、
「来月の舞台稽古のとき呼んでおいて」
 と告げた。
 実際の森さんはすでに三十八歳だったのだが、実年齢より若く見えるといって、これほど極端な例もそうはなかろう。
 はたして翌月、森さんは菊田一夫と劇場ではじめて会い、こう尋ねられた。
「芸術座でちゃんとしたホン(台本)の芝居に出てみないか」
 じきじきに誘われた。森さんは一呼吸おいて、
「はい」
 と答えた。
(…この続きは本書にてどうぞ)