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Shueishagakugei

謹んで令和元年台風災害のお見舞いを申し上げます。

度重なる台風により被災された皆様に、心からお見舞い申し上げます。
また、被災地等におきまして、避難生活や復興の支援など様々な活動に全力を尽くしていらっしゃる方々に、深く敬意と感謝の意を表しますとともに、
一日も早く復旧がなされますよう心よりお祈り申し上げます。

(株)集英社

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心とからだを幸せにする性知識イミダス

Columns

月経や射精といった生理現象のシステム、性交や避妊のしくみ、セクシュアリティやジェンダーについて…自分のからだのことや、自分を取り巻く「性」の問題について、あなたはどのくらい知っていますか? 「性」を知ることは、「健康」や「人権」「コミュニケーション」について学ぶこと。正しい性知識を学び直せば、より幸せな、自由な生き方が見えてくるでしょう。

男性のからだと性は「知らなくても生きていける」のか?

 女性編に続けて、今回は男性の生殖器を取り上げる。女性の生殖機能については、たとえば学校の保健の授業などで妊娠・出産のメカニズムと関連して基本的な知識が教えられるが、男性の生殖の仕組みについては、知識として身についていないのが現状ではないだろうか。知っているようで実は知らない男性の生殖機能の基礎知識について、また性情報をめぐる現状について、獨協医科大学埼玉医療センター泌尿器科の小堀善友先生にうかがった。


小堀善友医師(獨協医科大学埼玉医療センター泌尿器科)

医師でも男性の生殖機能のことをよく知らない

――そもそも、男性はどれくらい自分自身の生殖器やその仕組みについて知っているのでしょうか?

小堀 まず、男性のからだや生殖機能について学ぶ機会自体が非常に少ないと思います。たとえば、勃起や射精といった生理現象を日常的に体験していても、「なぜ勃起するのか」「射精とはどのようなメカニズムで起こるのか」などの知識は、一般男性はもちろん、生殖医療を専門とするごく一部の医師しか知らないのではないでしょうか。逆に言えば、前立腺の病気やなんらかの生殖器のトラブルを経験するまでは特に意識しなくても困らないわけです。この点は、毎月一度の月経が心身に影響を与えやすい女性との大きな違いで、男性は自分のからだに対する興味や関心を持ちにくいのかもしれません。

 この男女の違いは、診療の現場でも見られます。女性特有のからだの問題に対応するものとしては「婦人科学(ガイネコロジー:gynecology)」があり、何かあれば、女性は婦人科を受診することができますよね。それと同じように、「男性科(アンドロロジー:andrology)」というものもあるのですが、「婦人科」と比べれば、ほとんど知られていないのが現状です。

――確かに、病院に行っても「男性科(アンドロロジー)」という看板は掲げられていませんし、見たことも聞いたこともないという人が多いかもしれません。ちなみに、「アンドロロジー」ではどのような症状を診てもらえるのでしょうか?

小堀 「アンドロロジー」という専門科は一般的には存在しません。代わりに、泌尿器科が対応しています。泌尿器科では男性ホルモンのアンドロゲンに関連する男性特有の症状や疾患を診察します。生まれてすぐであれば停留精巣(ていりゅうせいそう)(*1)という症状を診たりしますし、思春期の二次性徴の遅れや成人の生殖医療、加齢により男性ホルモンが減少していくことで心身が変化する男性更年期障害、高齢期の男性生殖器のがんや排尿のトラブルなど、まさに「ゆりかごから墓場まで」男性のからだの悩みに対応する科と言えるでしょう。

 ただし、泌尿器科でも地域によって、病気は診られるけれど生殖医療については対応できないというところもあります。そのため、どこで診てもらえばいいかわからず、誰にも相談できずに悩んでしまうということも起こりがちです。

自分の精子に関心を持ってみる

――男性が自分のからだや生殖の仕組みに関心を持つためには、どのようなことが必要だと思われますか?

小堀 女性が毎月の月経で自分の体調を知るように、男性にとっては精子がひとつのバロメーターになるかもしれません。

 私の専門のひとつである男性不妊について言うと、女性の年齢が上がると妊娠しにくくなるように、男性も加齢によって精子の状態に影響が出ることはご存じでしょうか?

 実は精液のほとんどは精嚢と前立腺から分泌される液体で、その中に精子は数パーセントしか含まれておらず、射精で精液が出ているからといって、精子の状態がいいかどうかは別問題です。精子は思春期から死ぬまで毎日つくられ続けるとはいえ、やはり年をとると共に精子の運動率などはどんどん下がっていくということがわかっていますから、特に子どもが欲しいと思う人は、自分の精子の状態にぜひ関心を持ってほしいですね。たとえば、スマートフォンで精子の数や運動量などを観察できるキットなども販売されていますので、活用してみてもいいかもしれません。ただし、もし心配な結果が出たときは自己判断をせず、早めに専門機関で受診するようにしましょう。

 こうしたツールは手軽で便利ではありますが、精液の検査は誤差が大きいですし、慎重に扱うことが必要です。心の準備がないまま、「自分には精子が少ない」あるいは「精子がない」という結果に直面すれば、大きなショックを受けてしまうでしょう。日本人男性は100人に1人の割合で無精子症だと言われていますが、実際は無精子症でも子どもを授かる可能性がないわけではありません。しかし、そうした知識がないと「自分は無精子症だから結婚しない」と勝手に思い詰めてしまう危険があります。

性に関する「エビデンス」は難しい

――メディアにあふれる様々な性の情報の中には「本当なのだろうか?」と疑問に思うようなものもあります。私たちはどのような点に注意しながら情報に接していくとよいと思われますか。

小堀 ネットやメディアで喧伝される性情報で「エビデンス」とされているものの中には、「確かにそうかもしれない」と思えるものもあれば、話題づくり先行と感じられることも少なくありません。

 たとえば、「赤ん坊の泣き声を聞くと男性ホルモンの値が下がる」という研究結果をピックアップして、「イクメンは男の能力を下げる」という男性週刊誌の記事のエビデンスに使ったり、70代で子どもを授かった男性の例を挙げて「精子は生涯現役」などと謳ったりすることがあります。「エビデンス」自体は間違いではなくても、「イクメンは男の能力を下げる」「精子は生涯現役」と主張したいがために、意図的にそれに沿ったデータを選別して、「エビデンスがある」と言っているようなところもありますね。

 そもそも、医学界で常識とされているようなものは別として、ある研究結果だけを取り上げて「エビデンスだ」と言うのには無理があります。特に性に関する医学研究では、なかなか信頼に足るエビデンスを得にくく、たとえば男性不妊症では「なぜそうなのか」ということはほとんど解明されていません。不妊治療は男性だけではなく妻側の因子も大きいですから、なぜ妊娠できたのか、なぜ妊娠しないのか、治療との因果関係を証明することが非常に難しいんです。

性情報に振り回されないために

――エビデンスがあるからといってメディアの情報を鵜呑みにはできないということですね。男性が自分の性やからだについて正しい知識を得にくいのが現実とすると、それによってどのような問題が生じているのでしょうか?

小堀 先ほど、「特に意識しないでも困らない」と言いましたが、そう思っているのは本人だけということもあります。

 たとえば、正しいマスターベーションのやり方を知らないと、男性不妊の主な原因のひとつである「膣内射精障害」(*2)につながる「床オナ」(*3)が習慣になってしまったりするのですが、これは今、不妊治療の現場で大きな問題になっています。また、感染者が多いクラミジアや近年急増している梅毒のリスクから身を守るには、正しい性病の知識が不可欠です。

 やはり「知らなくても生きていける」というのではなく、男性は自分の生殖機能についてもっと意識を高めることが必要と言えます。また女性にとっても、男性のからだの仕組みを知ることでパートナーに対する理解が深まるはずです。
 女性が思春期から更年期、老年期とからだが変化していくように、男性も年齢と共に心身の状態は変わっていきます。信頼できる情報を元に、必要なときは専門家のアドバイスを受けながら、正しい性やからだの基本的知識を身につけていってほしいですね。

「性知識イミダス:男性の生殖器を知ろう」はこちら!

(*1)停留精巣 陰嚢(おちんちんの下のふくろ)の中に精巣(睾丸)が入ってない状態。

(*2)膣内射精障害 マスターベーションでは射精できるが、膣内では射精できない状態。

(*3)床オナ 手を使わずに、床や畳にペニスをこすりつけるオナニー(マスターベーション)のこと。

イミダス編(構成・文/加藤裕子)

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