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Shueishagakugei

謹んで「熊本地震」災害のお見舞いを申し上げます。

熊本地震により甚大な被害が発生いたしました。
お亡くなりになられた方々のご冥福をお祈りいたしますとともに、
被災された皆様に心よりお見舞い申し上げます。
一日も早く平穏な日々が戻りますよう、そして復旧がなされますよう心よりお祈り申し上げます。

(株)集英社

  • 集英社・熊本地震災害被災者支援募金のお知らせ

謹んで地震災害のお見舞いを
申し上げます。

東日本大震災により被災された皆様に、心からお見舞い申し上げます。
また、被災地等におきまして、救援や復興支援など様々な活動に全力を尽くしていらっしゃる方々に、深く敬意と感謝の意を表しますとともに、一日も早く復旧がなされますよう心よりお祈り申し上げます。

(株)集英社

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時事問題や社会現象、文化、スポーツまで現代の動きを各界の専門家が解説。

身体障害者補助犬を知っていますか?

2020年、補助犬同伴拒否ゼロを目指す

 盲導犬、介助犬、聴導犬と暮らす身体障害者の社会参加と自立を進めることを目的とした「身体障害者補助犬法」が2002年に成立してから、今年で15年が経ちました。その間に、補助犬ユーザーを取り巻く環境はどのように変化したのでしょうか? 身体障害者補助犬の理解と普及のための啓発活動や、障害者の社会参加・社会復帰を推進することを目的に、第三者機関として相談・情報提供を行う、特定非営利活動法人日本補助犬情報センター事務局長の橋爪智子さんが解説します。

補助犬とは、盲導犬、介助犬、聴導犬のこと

 皆さんは、「身体障害者補助犬」という言葉を聞いたことがあるでしょうか? 2002年5月22日に成立し、同年10月1日より施行された「身体障害者補助犬法」によって生まれた言葉で、略して「補助犬」と呼ばれ、盲導犬、介助犬、聴導犬の3種類のことを指します。それらの犬のことならば知っているという人も、それぞれの役割をどれだけ理解していますか? いちばんよく知られていると思われる盲導犬でも、誤解されている部分が多いので、はじめにこの3種類の補助犬のそれぞれの役割についてご説明します。
「盲導犬」の役割は、視覚障害者の安全で快適な歩行をサポートすることです。「駅まで行って」と目的地を言えば、盲導犬が自発的に誘導してくれるというナビ機能のイメージを持たれることもあるようですが、実は、盲導犬が教えているのは、「曲がり角」「段差」「障害物」の3点のみです。視覚障害者は、慣れている場所では頭の中で「メンタルマップ」という地図を描いており、そこに盲導犬が教える情報を組み合わせることで歩行が成立します。つまり、メンタルマップが描けていない初めての場所では、盲導犬との単独歩行は成立しません。

「介助犬」は、肢体不自由者の日常生活動作をサポートします。肢体不自由者とひと言で言っても、障害の種類や程度などによって必要とするサポート内容は一人ひとり異なるため、介助犬はユーザーのニーズに合わせたオーダーメイドで訓練されます。物を拾い上げる、指示したものを手元まで持って来て渡す、ドアの開閉、スイッチ操作、着脱衣の介助、起き上がり・立ち上がり介助などさまざまで、車椅子使用者だけではなく、歩行バランスの悪い方の支えとなって杖代わりに歩行介助をする介助犬もいます。特に、室内で転倒して起き上がれないとき、介助犬が離れた場所にある携帯電話や電話の子機を探して手元まで持ってくるという動作が、いざというときの「緊急連絡手段の確保」となるため、安心して生活することができます。

「聴導犬」は聴覚障害者に必要な音を知らせます。玄関のチャイム音、お湯が沸いたときのやかんの音、洗濯機など家電機器の終了音やエラー音、冷蔵庫の閉め忘れブザー音、FAXの受信音、携帯メール等の受信音など、訓練で教えられた音が発生すると、ユーザーの体にタッチして知らせ、音源まで誘導します。「赤ちゃんの泣き声」を知らせてもらうことで、安心して育児をすることができます。外出時は、後ろから来る自転車のベルや車のクラクションの音などを教えます。通常は音を知らせて音源へ誘導しますが、火災警報器など緊急時の音の場合は、体にタッチした後にその場に伏せます。聴導犬のこの動作によって聴覚障害者は「緊急事態」を認識し、周囲への助けを求めることができます。
 つまり、聴導犬はただ音を教えるだけではなく、音が持つ「情報」を伝えているのです。また、聴覚障害は外見からはわからない「見えない障害」と言われていますが、聴導犬と一緒に社会参加することで「見える障害」となり、聴覚障害者が社会参加する上で、聴導犬は非常に心強い存在になっています。

 補助犬が行うこれらのサポート内容は、補助器具や人による介助で解消できるものがほとんどですが、補助犬の役割は物理的な補助だけではありません。「人にお願いする」という精神的な負担が減ることや、障害者自らが犬に指示を出して世話をするという作業が障害者自身に自立心や自尊心を与えることこそが、補助犬ならではの大きなメリットなのです。

補助犬法の認知度の低さと、なくならない同伴拒否

 2002年に成立した身体障害者補助犬法(以下、補助犬法)は、「身体障害者補助犬の育成及びこれを使用する身体障害者の施設等の利用の円滑化を図り、もって身体障害者の自立及び社会参加の促進に寄与すること」を目的に制定された法律です。この法律ができる以前は、補助犬ユーザーにとって補助犬は自分の体の一部であるにもかかわらず、法的根拠が何もないため、ペットと同様に扱われ、「犬連れはお断り」という決まり文句によって社会参加が阻まれてきました。
 そこで補助犬法では、国が指定した法人による補助犬の公的認定制度を設けました。認定証は「補助犬ユーザーと補助犬」のペアで発行されるものであり、補助犬ユーザーによる犬の行動管理と衛生管理の義務等を定めるとともに、公共施設や交通機関、飲食店、商業施設、病院など、不特定多数が利用する施設で補助犬の同伴を「拒んではならない」と定めています。

 補助犬法制定以降、障害者基本法や社会福祉法が改正され、06年10月からは障害者自立支援法における都道府県が実施する地域生活支援事業の中のメニュー事業の一つとして、「補助犬育成事業」が位置づけられて、各都道府県での公費助成も始まりました。  このように法整備が進んだものの、肝心の補助犬法の認知度がなかなか上がらず、法成立から15年経った今でも、全国各地で補助犬同伴拒否が後を絶ちません。日本補助犬情報センターが2015年に補助犬ユーザーを対象に行ったアンケートでも、飲食店で44.4%、医療機関で46.5%が同伴拒否の経験があるという回答が得られました。同伴を拒否された補助犬ユーザーたち自らが補助犬法の説明をし、交渉しなければならない現状が今も続いています。

補助犬に対するさまざまなイメージ

 17年5月1日現在、全国の補助犬の実働頭数は、盲導犬966頭、介助犬70頭、聴導犬73頭の1109頭です。実働数の少なさが補助犬法の認知度の低さに起因していると考えられる一方で、何かがあれば大きく注目されてしまうという側面もあります。
 補助犬というと、「スーパードッグ」というイメージがどうしても付いて回るようで、2014年に、盲導犬が何者かに刺されたのではないかという報道があった際も、ネットを通じて、「盲導犬だから鳴かずに我慢した」という誤った情報が瞬く間に拡散されました。つい最近も、「補助犬は足を踏まれても鳴き声を上げないそうだから、踏んでみよう」と、実際に踏もうとした人がいたという話を聞きました。けれども、犬は私たち人間と同じ命ある生き物ですから、痛かったり驚いたりしたら鳴き声を上げます。ただ、その後、取り乱してパニックを起こしたり攻撃したりしない性質の犬たちが、「適性あり」と判断されて補助犬に選ばれているだけなのです。
 また、補助犬1頭のほんの少しの失敗が、全補助犬のイメージに直結する可能性が高いことも問題です。万が一、少しでも粗相をすれば、「やはり犬はダメだ。受け入れられない!」という展開になりがちなので、ユーザーの責任は重大であり、大きな負担を強いています。
 その根底には、補助犬に限らない、日本での「犬」に対するイメージがあると考えられます。ペットとして飼われている犬がマーキング(オシッコ)をしながら歩いていたり、飼い主がうんちを片付けなかったり、吠えて近隣に迷惑をかけたりなど、犬にマイナスイメージを持つ人が多いほど、それが補助犬にも跳ね返ってきます。一般の飼い主のマナーが向上し、犬全体のイメージをアップさせることが、補助犬の普及には欠かせないでしょう。
 それから、補助犬ユーザーがどんな訓練と認定を受け、どのように犬を管理しているかという情報が、これまで不足していたように思います。自動車の運転免許を取るときに教習所へ行くように、補助犬ユーザーも補助犬とペアで社会参加するための合同訓練を受け、最終的に国の指定法人で試験を受けて合格したペアだけが認定されます。ユーザーは社会参加の場面で、補助犬に対する行動管理・衛生管理の全責任を負います。食事の世話もしますし、排泄についてもその補助犬のタイミングを計って、指示した場所・時間でするように管理して片付けも自分で行い、補助犬の「飼い主」として責任を持てる人にのみ認定証が発行されています。こうしたことが理解されれば、補助犬と補助犬法の認知度はもっと上がっていくのではないでしょうか。
 補助犬ユーザーと補助犬を取り巻く実情をもっと理解していただくために、管轄の厚生労働省や当センターでも啓発活動に取り組み、情報発信に努めています。

2020年東京オリンピック・パラリンピックに向けて

 日本での普及活動と同時に、今、もう一つ取り組まなければならない緊急課題があります。それは、海外からの補助犬ユーザーの受け入れです。20年に開催される東京オリンピック・パラリンピックでは、補助犬同伴で来日する外国人の増加が予想されます。しかしながら、補助犬法は国内法であるため、同伴受け入れ義務は国内で認定された補助犬ユーザーと補助犬に限られており、外国人の補助犬ユーザーと補助犬には国内でのアクセス権(さまざまな施設に同伴して利用する権利)は認められていません。
 現状では、民間レベルの取り組みとして国内の指定法人が「一時通行証」を発行していますが、それらの基準の統一など受け入れ体制づくりは、今後本格的に検討されていくことになります。まずは、海外の方にも日本の補助犬法の存在を知ってもらうために、この5月に海外向けの補助犬ポータルサイトが公開されました。そして今年度中には、海外の補助犬ユーザーの受け入れに関する検討会の開催が予定されています。
 国内の補助犬の理解促進にとっても、東京オリンピック・パラリンピックの開催は大きなチャンスです。世界の人々から「さすが日本!」と言われる、真の「おもてなし」をするためには、社会全体が障害の有無にかかわらず一丸となって協働し、障害者や補助犬たちが、安心して活躍できる新しい社会をつくり上げていく必要があります。

真のユニバーサルデザイン社会を目指して

 14年1月に日本は障害者権利条約を批准し、16年4月に障害者差別解消法が施行されました。これに基づいて、障害者を取り巻く環境は大きく変わり始めました。障害者理解の新しい考え方の普及が加速し、従来のように障害者支援の専門家の意見が中心になるのではなく、何よりも耳を傾けるべきは、当事者である障害者の言葉であるという「当事者研究」が進んでいます。
 さらに世界的なトレンドとして、「医学モデル(個人モデル)から社会モデルへ」という流れがあります。「障害とは何か」という概念に関して、その人の身体に障害があるという「個人の問題」として捉える「医学モデル(個人モデル)」がこれまでは主流でした。しかし、最近では社会こそが「障害(障壁)」を作っており、障害者が抱える問題は社会の問題という「社会モデル」の考え方が主流になってきています。
 補助犬については、20年までに「同伴拒否ゼロ」を目標としていますが、それがゴールではなくそこからがスタートであり、どんなレガシーを残せるか、これこそがいちばん大切です。そのためには、人々の理解と一人ひとりの発信が重要になってきます。もし、飲食店など受け入れ側の理解不足で補助犬同伴を拒否されている場面に遭遇した場合には、「補助犬法で受け入れが義務づけられています」と、ぜひ援護をお願いします。特に飲食店などで「他のお客様のご迷惑になりますので」と断られるケースが多いので、「他のお客様」から「大丈夫だ」と伝えることが、何よりも心強いサポートになります。
 また、補助犬を同伴していても、人的なサポートが必要な場合もあります。盲導犬が一緒でも、信号の色は犬には判断できません。視覚障害者が赤信号で止まり、青信号で歩き出すのは、盲導犬が知らせる「段差」などの情報を受け取り、障害者自身が周囲の気配や音を察知して判断しています。信号の前で盲導犬ユーザーや白杖を持っている視覚障害者を見かけたら、「まだ赤です」「青になりましたよ」とぜひ声をかけてください。
 介助犬と聴導犬のユーザーも同様です。表示を付けている補助犬は「仕事中」なので、犬に勝手に触ったりじっと見つめたりなどの気を引く行為をして、犬の仕事のじゃまをしないようにお願いしていますが、ユーザーが困っている様子が見られたら、まずは「何かお手伝いできることはありますか?」のひと言をお願いします。そのときに「大丈夫です」と言われても、「せっかく声をかけたのに!」ではなく、「困っていなくてよかった」と思えるようになりたいものです。そんなコミュニケーションが当たり前にとれる社会は、すべての人が安心できる社会だと思います。
 補助犬法成立から15年、東京オリンピック・パラリンピック開催を3年後に控えた今、障害の有無、年齢や性別、国籍や民族などにかかわりなく、誰もが等しく安全・安心・快適・便利に暮らせる、真のユニバーサルデザイン社会を推進する千載一遇のチャンスでもあります。このチャンスを生かして、障害者や補助犬が当たり前のようにいる社会の実現を目指したいと考えています。

橋爪智子
(特定非営利活動法人 日本補助犬情報センター事務局長(専務理事))

橋爪智子

1972年京都府京都市生まれ。同志社大学商学部卒。95年、東京海上火災保険(現・東京海上日動火災保険)に入社。会社員時代にAAT(Animal Assisted Therapy/動物介在療法)に出会い、ボランティア活動をしながら、国内外で学ぶ。2002年に日本介助犬アカデミー(現・日本補助犬情報センター)の事務局長に就任。身体障害者補助犬法には、法律の準備段階からかかわっている。日本ファンドレイジング協会准認定ファンドレイザー。

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