集英社 知と創意のエンタテイメント 学芸・ノンフィクション

文字サイズを変更

  • Facebook
  • Twitter
  • 開高健ノンフィクション賞
  • 情報・知識&オピニオン imidas
  • 集英社創業90周年記念企画 ART GALLERY テーマで見る世界の名画(全10巻)
  • 渡辺淳一恋愛小説セレクション【全9巻】
  • 集英社国語辞典[第3版]
  • 集英社ビジネス書
  • e!集英社

Shueishagakugei

謹んで「熊本地震」災害のお見舞いを申し上げます。

熊本地震により甚大な被害が発生いたしました。
お亡くなりになられた方々のご冥福をお祈りいたしますとともに、
被災された皆様に心よりお見舞い申し上げます。
一日も早く平穏な日々が戻りますよう、そして復旧がなされますよう心よりお祈り申し上げます。

(株)集英社

  • 集英社・熊本地震災害被災者支援募金のお知らせ

謹んで地震災害のお見舞いを
申し上げます。

東日本大震災により被災された皆様に、心からお見舞い申し上げます。
また、被災地等におきまして、救援や復興支援など様々な活動に全力を尽くしていらっしゃる方々に、深く敬意と感謝の意を表しますとともに、一日も早く復旧がなされますよう心よりお祈り申し上げます。

(株)集英社

  • 集英社・東日本大震災被災者支援募金のお知らせ
  • 集英社・東日本大震災被災者支援募金募金状況とご報告

情報・知識&オピニオン imidas

時事オピニオン

Columns

時事問題や社会現象、文化、スポーツまで現代の動きを各界の専門家が解説。

『けものフレンズ』現象を読み解く

アニメがそなえる「魔法のパワー」

「すごーい!」「たーのしー!」などのゆるいセリフと魅力あふれるキャラクター、その一方でどこか不穏な気配も感じさせるストーリー展開が話題を呼び、2017年を代表するヒット作となったアニメ『けものフレンズ』。ヒットの秘訣は何だったのか? なぜ放送終了後もその熱量が持続し続けているのか? アニメ特撮研究家の氷川竜介氏が分析する。

「けもの」を媒介に拡大するヒット作

 深夜帯で2017年1月から3月まで放送されたTVアニメ『けものフレンズ』(全12話、テレビ東京ほか)の人気拡大が止まらない。動物を擬人化した美少女キャラ《フレンズ》を描く点では、特に珍しいものではない。近年、他にも動物テーマの児童向け作品が複数あった。だが、過去のどれとも違う新しいタイプのブームを起こして注目が集まっているのである。


 本編が2話ずつ収録された公式書籍『けものフレンズBD付オフィシャルガイドブック』の第3巻の帯には、「20万部突破の大ヒット!!!」と記されている。衰退するソフト販売ビジネスでテレビアニメは各巻3万本も出れば年間ベスト20に入るほどだから、各巻7万本級となれば破格の数字である。7月26日に発売された第5巻の帯ではファンの要望にこたえて第2期の制作決定も発表されている。
 放送終了からあまり間を置かず、他メディアで展開している点もすごい。6月には品川プリンスホテル クラブeXでミュージカル『舞台 「けものフレンズ」』が開催された。サーバル、フェネック、アライグマたちアニメ版の声優がキャラの姿で歌って踊ることで大人気となった(2018年1月に再演決定)。東武動物公園をはじめとする全国各地の動物園や、JRA(日本中央競馬会)などとのコラボ企画も、「現実のけもの」と深く関連づけた点で秀逸である。
 さらに人気を受けて、8月14日からはテレビ東京系で朝7時30分から連日再放送が決定。もともと子どもにも親しみやすくするという企画趣旨なので、美少女キャラものとはいえ健康的なイメージもあり、今後も年齢層を超えた拡がりが期待できそうだ。
 このように大きなブームを巻き起こしている同作だが、原作表記されている「けものフレンズプロジェクト」自体は、2014年からスタートしていた。ただし結果は必ずしも順風満帆とは行かず、アニメ放送もソーシャルゲームのサービス終了後という、遅く厳しい状況下の出発であった。それなのにアニメ人気がプロジェクト全体を再起動させたのだ。であれば、そこにはどういうアニメパワーが作用したのだろうか。「アニメーション」のそなえる「魔法のパワー」の介在について、映像表現の側面と、ストーリー展開の側面から分析してみたい。

「ゆるさ」を獲得した3DCG

 このアニメの制作スタイルは、かなり常道から外れたものであった。キャラクターは手描きではなくフル3DCGが採用され、表現としてはセルルックとなっている。フレンズのデザインはヒット作『ケロロ軍曹』の吉崎観音によるもので、耳や尾、牙など実際の動物の概観を反映したうえで、斑点や縞模様など特徴ある表皮をコスチューム化している。これを的確に表現するには、形の崩れにくいCGのほうが有利というわけだ。
 一方、背景は一般のアニメ同様、手描きの絵を平面的に配置する手法が中心だ。被写体となるフレンズの動きに連携してカメラが手前・奥方向に移動する演出でも、砂漠やジャングル、高山、河川など雄大な自然環境が多いため、ゆったりした空間表現になっている。
 現在の深夜アニメの多くは、ひたすらデータ量を増やす方向性をとっている。より正確に、より複雑に、より緻密に、より自然に……という手段で画面の「求心力」に相当する「クオリティ」を高めようとしているのだ。ところが『けものフレンズ』は、まったく逆方向の制作姿勢をとっている。
 3DCGでキャラクターのモデルを制作した場合、360度どの方向から見ても破綻なくすることは難しい。動きの途中でおかしな顔に見えるコマが出たり、ポーズによって髪の毛が衣服にめり込んだりするので、手描きの修正が必要になる。だが、本作ではそうした調整を最小限度にして、むしろ全体に「ゆるい感じ」でクオリティを低く均質化している。その「ゆるさ」自体を作品の「主張」「世界観」と受け止められる「表現」にまで極めた逆張りの姿勢が、ヒットを底支えしているのではないだろうか。
 アニメーション制作を担当するのは、かつて『てさぐれ! 部活もの』(13年)というTVシリーズを手がけて話題を呼んだ、たつき監督とヤオヨロズである。これは『gdgd妖精s(ぐだぐだフェアリーズ)』(11年)の流れをくむ3DCGアニメである。これらの作品は声優のフリートークを先に収録し、それに3DCGでキャラの演技をつけるプレスコ(プレスコアリング)パートが売りであった。絵づくりが先行するアニメでは、演者自身のもつ生理、それを反映した「間」、掛け合いのもつ「呼吸」が表現しづらくなる。むしろそれを活用して「ナマっぽさ」を重視したのだった。
『けものフレンズ』でも、声優の芝居が優先されている。その心地よい響きが「ゆるさ」と化合することで、他にはないリアリティとアメニティが同時に生じている。
 こうした、視聴者をもてなす「居心地の良さ」を醸しだす空気感が、知的な好奇心を触発する余白を生む。
 本作では、「動物をモチーフにしたフレンズたち」の多種多様な生態を観察したときに触発される感覚が、大きな魅力となっている。もともと地球は人間の住む地域だけではなく、ましてや都会とは異なる自然のほうが環境の大半を占めている。人間にすれば過酷な場所に見えても、動物たちはうまく適応して棲み分けている。作品の舞台となる架空の超大型総合動物園「ジャパリパーク」は、その「うまくやってる感じ」を圧縮して見せてくれるものなのだ。便利なはずの人間社会で「うまくいかないこと」にストレスを抱えるわれわれにとって、この「フレンズたちのユートピア感」の発見は大きな価値であり、癒やしにもなるのではないだろうか。

知的好奇心を触発する多重構造

 全12話のストーリーとしては、最初から最後まで「かばんちゃん」と「サーバル」の友情の旅に絞りこんでいる。これを縦軸としつつ、各話で道中遭遇するフレンズとの交流を横軸にして編み上げ、立体感を獲得している。それが「世界の実在感」につながっているのも、このアニメの大きな魅力である。
「かばんちゃん」は、どのフレンズとも特徴が異なる正体不明、本人の記憶もゼロという「謎」を示しながら登場する。サーバルキャットのフレンズ、「サーバル」はすすんでパートナーとなり、「ジャパリパーク」の詳細を紹介しながら旅を進める。この「謎と友情」が縦軸に推進力をあたえ、新たな謎解きへ向かい続けるという構造が見事な「物語」である。

 二人が道中遭遇する情報のギャップは、作り手と視聴者の情報落差そのものだ。だが、次第に浮き彫りになるフレンズの多様性と、逆照射される「人」の特性、その対比の描き方が実に味わい深い。結果的に、実在する動物の能力や特性への興味関心も深まり、ひいては地球環境と動物の生態の多様性、あるいは「生命の尊厳」という根源へと想いが拡がっていくのも、人気の秘密であろう。
 キャラ化されたことで、あらためて目を引くようになる動物たちの特徴とは、自然へ適応するためにそれぞれ独自に能力を発達させたものだ。その能力の「同じ部分」と「違う部分」に想像力をめぐらせ、理由を考えることで知的好奇心が満足される。そんな高度な「発見の喜び」にあふれているアニメは数多くない。
 その好奇心は劇中の「謎」にもおよび、さらなる興味がかきたてられる。「パーク」は誰が何のために作ったのか。動物に接触することでフレンズを産み出す「サンドスター」とは何か。なぜ人はいなくなってしまったのか。はたして絶滅したのか。
 人気の起爆剤となったダークサイド的な二重構造にしても、明示されたものではない。視聴者からの発見をうながすよう、たくみに仕掛けられている。4~5話をかけてちりばめられた情報に観客の知的好奇心が作用することで、「一見幸せそうな世界の裏側には何かありそうだ」という推理を呼びさましたのである。

「圧巻の情報の奥行き」によって「参加の感覚」を触発するというプロセスに注目すると、『シン・ゴジラ』や『この世界の片隅に』など近年のヒット作のいくつかと同じ傾向があることも分かってくる。特に『けものフレンズ』の場合はキャラクター性が突出するよう考えられているため、一見ゆるく、拡がりのある大衆向けの入り口があるのがいい。そこから気軽に入っていくと、実によく考えられている奥の深さを楽しめるという「構造」の点で、秀逸である。これは「動線がうまく考えられている動物園」なのだ。

「アニマル」と「アニメ」の関係性

 こうした推理のプロセスを通じて得られた知見や感覚が、想像力の発動をうながし、作品が終わっても「現実の動物」「現実の自然界」へとつながっていくのだとしたら、この「けものフレンズプロジェクト」はかけがえのない境地を開拓しつつあるのではないか。そこには冒頭述べた「アニメーション」のそなえる「魔法のパワー」が介在している。それが、何より嬉しいことだ。
 もともと「アニメーション」という用語は「アニマル」と同じ「アニマ(ラテン語の霊魂)」を語源としている。その「霊魂=いのち」とは、設定として説明されるものではなく、想像力を媒介にして吹きこまれ、発見されるものだったはずだ。
 アニマルをモチーフにしたフレンズの生活、特徴の「動き」に観客が想像をめぐらせることには、「いのちの発見」がある。その点で『けものフレンズ』は「アニメーションの根幹」に触れている。アメリカ映画のように、巨費をかけて常時なめらかなモーション、アクションを見せつけるだけがアニメーションの価値ではない。『けものフレンズ』のように、控えめに静かに動かし、間を大事にしつつも「大切な時間」を観る者に想像させるタイプの3DCGアニメーションもあり得るということだ。この発見は、もしかしたら、「日本らしいアニメ文化」に新たな1ページを加えるものかもしれない。
 送り手と受け手、想像力の相互作用に「新しいかたち」を獲得しつつある『けものフレンズ』。その点で、今後の展開と新たな進化の可能性から目が離せない。

氷川竜介
(アニメ特撮研究家)

氷川竜介

1958年生まれ。東京工業大学卒。日本SF作家クラブ会員。70年代後半から『機動戦士ガンダム』など数々の作品に関わる。文化庁メディア芸術祭アニメーション部門審査委員、毎日映画コンクールアニメーション映画賞選考委員を歴任。文化庁向けに「日本特撮に関する調査報告書」「日本アニメーションガイド ロボットアニメ編」を執筆。2014年度から明治大学大学院国際日本学研究科客員教授。近著に「細田守の世界」(祥伝社、2015年)がある。

>imidas PCサイトはこちら

本ホームページに掲載の記事・写真の無断転載を禁じます。すべての内容は日本の著作権法並びに国際条約により保護されています。
(c)SHUEISHA Inc. All rights reserved.