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Shueishagakugei

謹んで「熊本地震」災害のお見舞いを申し上げます。

熊本地震により甚大な被害が発生いたしました。
お亡くなりになられた方々のご冥福をお祈りいたしますとともに、
被災された皆様に心よりお見舞い申し上げます。
一日も早く平穏な日々が戻りますよう、そして復旧がなされますよう心よりお祈り申し上げます。

(株)集英社

  • 集英社・熊本地震災害被災者支援募金のお知らせ

謹んで地震災害のお見舞いを
申し上げます。

東日本大震災により被災された皆様に、心からお見舞い申し上げます。
また、被災地等におきまして、救援や復興支援など様々な活動に全力を尽くしていらっしゃる方々に、深く敬意と感謝の意を表しますとともに、一日も早く復旧がなされますよう心よりお祈り申し上げます。

(株)集英社

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ラテンギャング・ストーリー

Columns

2011年以来、中米ホンジュラスは、殺人事件発生率が世界一高い。メキシコの麻薬カルテルと手を結んだ凶悪な若者ギャング団の抗争が激化し、暴力から逃れるためアメリカやメキシコへ不法入国する人々も急増している。そのホンジュラスの中でも最も危険な地域、首都テグシガルパと第2の都市サン・ペドロ・スーラで、ジャーナリストの工藤律子が、元ギャングに出会った。少年たちは、なぜ死と隣り合わせのギャングになったのか。

迫るマラス、揺れる移民の心

メキシコ国境編3

→第2回「『性暴力』を生き延びる少女たち」はこちらへ

 貧困とギャング団「マラス」の暴力から逃れようと、ホンジュラス、エルサルバドル、グアテマラから、大勢の移民が米国を目指し、メキシコへ来ている。その中には、幼い頃から家庭や地域社会で虐げられ、性暴力に苦しみ、果てはマラスに脅され、祖国を飛び出した少女たちもいる。彼女たちの一部は、幸運にもメキシコに居場所を得て、新たな人生を築こうとしている。だが、そのメキシコにも、マラスの魔の手が伸びつつある。


経営していた食堂が麻薬カルテルに放火された際のニュース写真を見せるグアテマラ人男性。 撮影:篠田有史

北上するマラス

「入国管理局の勾留センター内にも、マラスのメンバーが入り込んでいるよ」
 メキシコ南東部のグアテマラ国境に近い町、タパチューラに拠点を置く人権団体「フライ・マティーアス・デ・コルドバ」のサルバは、勾留されている移民からそういう話を聞くと語る。
「“偵察係”として入り込んだマラスのメンバーは、マラスから逃れた人間の中で、誰がメキシコに来ているのか、誰が強制送還になるのか、あるいはメキシコに残るのかをチェックして、外の仲間に報告しているそうだ」

 祖国での危険を回避し、メキシコにたどり着いても、一度マラスに目を付けられた者は、簡単にはその手から逃れられないということだ。しかも、そうした「偵察係」の存在を、入国管理局の役人は黙認していると見られる。
「タパチューラの町の中央広場でも、時々、明らかにマラスメンバーだと分かる連中を見かける。腕や首筋にタトゥーをした男が、ベンチなどに座って、辺りの様子をうかがっているんだ」


タパチューラの中央公園 撮影:篠田有史

 2014、15年に取材したホンジュラスの首都テグシガルパやサン・ペドロ・スーラのスラムは、地域ごとに、マラ・サルバトゥルーチャ(MS-13)とバリオ・ディエシオチョ(M-18)といった二大マラスに仕切られていた。この町ではまだそのようなことはないが、それらマラスのメンバーがかなりいることは確かだ、とサルバは話す。
 ベルギーのブリュッセルに本部を置くシンクタンク「インターナショナル・クライシス・グループ」によると、メキシコ南部地域は現在、麻薬犯罪組織の縄張り争いが激しくなっており、それに乗じてマラスの進出が加速しているという。かつては、凶悪なことで知られるメキシコの麻薬カルテル「ロス・セタス」と「カルテル・デ・シナロア(大ボスの「エル・チャポ」ことホアキン・グスマンが米国で裁判にかけられている)が、この辺りの中米からの麻薬密輸ルートを支配していた。ところが、それらが分裂し、抗争を繰り返すうちに、「カルテル・デ・シナロア」から分かれた「カルテル・デ・ハリスコ・ヌエバ・へネラシオン」と、MS-13などの中米のマラスも勢力を伸ばしてきた。これにはホンジュラスやエルサルバドル、グアテマラにおいて、政府による武力を使ったマラス殲滅(せんめつ)作戦が進行していることも影響していると考えられる。
 メキシコ国家人権委員会によると、メキシコにおけるマラスの存在は、20年以上前から知られていた。最初は、各地に小さなグループが点在しているだけで、二大マラスが抗争を展開しているわけではなかった。ところが近年、MS-13とM-18が本格的な縄張り争いを始めており、それはタパチューラがあるチアパス州において最も顕著だとされている。グアテマラと隣接するチアパス州では、2016年に13人のマラスメンバーが逮捕されたが、今年(18年)2月までにその数は計161人になったと、チアパス州市民安全保護局は報告している。逮捕されたメンバーは、刑務所の中から外の仲間に命令を出していると言われる。
 彼らは、縄張りで麻薬密売に携わるだけでなく、住民を恐喝し「税」を集めることに力を注ぐ。また、縄張りを通過する移民たちから金品を奪ったり、彼らを誘拐して家族に身代金を要求したり、少女や若い女性を性産業に売り飛ばしたり、といった犯罪行為を働いている。仲間を増やすために、メキシコ人の若者をリクルートするのはもちろん、逃げてきた移民青年たちにも、マラスに入るよう、あるいは戻るよう、脅しをかける。そのために、勾留センターや町の広場で「獲物」を探しているわけだ。
 タパチューラでは、彼らが移民のための一時滞在施設周辺にまで現れ、犯罪や暴力事件を起こしている。それは移民だけでなく、その地域の住民までもが身の危険を感じる状況だ。

支援と偏見のはざまで

「移民の家『ベレン』に行ってみるといい」
 サルバのアドバイスに従い、国境視察の翌日、私たちはタパチューラ市内にある移民の家「ベレン」を訪ねた。車で施設に近付いていくと、施設の正面に、着の身着のままで旅をしてきたと分かる男女十数人が、疲れた表情で座り込んでいるのが見えた。車を降りて、彼らに挨拶をしながら施設に入る。入り口では、この日の宿泊を希望する人たちが、職員に名前や出身地などを告げていた。左手に事務所があり、私たちに気付いた所長の男性(60)が用件を聞きに出てくる。移民の状況を取材しているので、どんな人たちがどのような支援を受けているのか知りたいと伝えると、所長は少し考えてから、「移民の皆さんの話は、外で自由に聞いてください。施設内は、私が案内しましょう」と、応じてくれた。


移民の家「ベレン」の中庭。 撮影:篠田有史

 この施設は、朝6時半から夜8時半まで扉を開いており、テクン・ウマンにある「移民の家」と同様に、原則2、3日の滞在を条件に受け入れている。難民申請をした人は、数週間いることも可能だが、滞在希望者は次々と現れるため、あまり長くはいられない。収容可能人数は100人前後だ。滞在中は、ベッドと1日2回の食事、医療支援、子どもには保育・学習支援サービスが提供され、すぐ隣の建物では3年前から、町にしばらく定住する人たちのために、電子機器修理と冷蔵・冷房器具修理、パティシエの職業訓練校を運営している。
「今は、移民の皆さんが早く普通に働ける機会を得られるよう支えることに、力を注いでいます」
 と、所長が言う。だから、職業訓練校ではただ技術を教えるのではなく、大学との提携によって、試験に合格すれば就職時に有効な大学名入りの修了証書も発行している。滞在許可を得て定職に就くことができれば、支援を離れて生活できるというわけだ。
「そうでないと、この外の道端に座っている人たちのように、建設現場の日雇い仕事をくれる業者を待っては日銭を稼ぐといった、不安定な暮らしを続けることになりますから」
 異国でひもじく先の見えない日々が続けば、犯罪に手を染める人間も出てくる。生き延びるために、メキシコで再びマラスに入る元ギャングもいる。そうなると、移民全体が地元民から白い目で見られることにもなる。現に最近、「『ベレン』周辺は、外国人が押し寄せているせいで治安が悪化している」と、住民が警察に苦情を出したことがあるという。


「ベレン」前の道ばたで休む移民男性たち。左端の男性はメキシコに残ると言い、その右にいる青年二人は米国を目指すと語る。 撮影:篠田有史

 その一方で、一部のメキシコ人が移民を食い物にすることもある。路上で夜を明かす移民に石を投げる者、水をかける者、「不法移民」の弱みに付け込み彼らを「見逃す」ことに対して見返りを要求する警察官、強盗を働く者……。
「私たちは、スチアテ川を筏(いかだ)で渡ってメキシコに入った途端に、道端で両替商を装う男3人に取り囲まれ、ナイフで脅されて、合わせて9000ペソ分(約5万円)のお金とスマートフォンを奪われました」
 施設の外にいたグアテマラ北部ペテン県から来た男性(43)は、そう証言する。
「でも、それを目撃した親切な人が、300ペソくれました。おかげで、何とかここまでたどり着けたんです」
 彼は、故郷で食堂を経営していたが、ペテン県を支配する麻薬カルテルに毎月500ケツァル(約7000円)のみかじめ料を要求され、払えなくなった途端、食堂に放火された。生活の糧全てを焼かれて「殺される前に逃げよう」と、妻(32)と娘(16)と息子(9)の家族全員で、メキシコを目指した。既に難民申請をしており、滞在許可証が手に入ったら、姉が住むメキシコシティへ移るつもりだと話す。
 施設前の道端にしゃがみ込んでいる男性グループの一人(42)も、「難民申請をして、生活を立て直したい」と語る。ホンジュラス南部エル・パライソ県で靴修理工房を開いていた彼は、
「四六時中マラスに恐喝されて、おちおち仕事もできない状態だった」
 と、うつむく。その後顔を上げて、こう言った。
「メキシコにだって麻薬カルテルなどの問題はあるけれど、少なくとも私は親切な人たちに助けられた。私の国よりずっといい」


グアテマラ人男性携帯電話に届いた、「2時間以内にみかじめ料を振り込まないと殺す」という麻薬カルテルからの脅迫メッセージ。 撮影:篠田有史

大国のエゴと移民

 彼と一緒に座っていたホンジュラス人の青年二人は、まもなくメキシコを縦断する貨物列車の屋根に乗って、米国まで旅を続ける決意だと述べる。米国の壁は高いのではないかと問う私に、一人(26)が熱っぽくこう答える。
「そこにしか希望がないんだから、仕方がないじゃないか。そもそも中米の状況は、その米国の都合で作り出されているんだし。政治もそうだ。ホンジュラスの大統領選挙だって、米国は左派政権になると困るから、あんな結果を認めたのさ」
 昨年、選挙不正に抗議し、やり直しを訴える国民や、「選挙結果は信頼性に乏しい」と発表した米州機構選挙監視団を無視して、米国は保守派与党のフアン・オルランドエルナンデス大統領の再選を認めた。その裏には、エルナンデス政権が米国の移民政策や新自由主義経済政策はもちろん、ドナルド・トランプ大統領の「エルサレムはイスラエルの首都だ」という主張まで支持してきた事実がある。つまりその青年は、米国自身が、中米の民主主義と自由をねじ曲げてきた結果が、この移民危機だと言いたいのだ。だとすれば、米国は自らの首を絞めているということになる。
 メキシコでは、10月半ばに始まった「中米からの移民キャラバン騒動」が、1カ月以上過ぎた11月現在も続いている。エルサルバドル人を中心とする第5陣までがメキシコに入り、最初のキャラバンの2000人以上は、11月半ばに米墨国境の町、ティファナに到着した。この町に集まる中米移民の数は、さらに増え1万人規模になるだろう。彼ら共通の望みは、難民として合法的に米国移住を認められることだが、トランプ政権がそれを叶える確率は低い。
 米国により、移民への対応を押し付けられた形のメキシコは、メキシコシティやティファナといった移民の集合地点となっている都市で、公共施設を開放し、食事や入浴、医療などのサービスを提供している。既存の支援施設だけではスペースも物資も十分には供給できないからだ。メキシコのペニャ・ニエト政権はまた、強制送還中心だった「キャラバン以前」の政策を一変して、「難民申請をして国内南東部(主にチアパス州)に留まるならば、一時労働許可証や医療と教育へのアクセスを保証する」と発表。移民キャラバンの2600人以上が、このオファーを受け入れた。
 わずか数日間に何千人もの移民を迎えることになったティファナでは、施設に入らず野宿する移民の姿に不安を感じる市民もおり、抗議行動も起きている。同市市長は、「この異常事態に対応する策を講じて欲しい」と、メディアを通して連邦政府や国際連合に訴えた。経験のない社会的ストレスは、人々から寛容さを奪いはじめている。 それでもなお、多くの市民は、旅を続けるキャラバンに食事を提供したり、ヒッチハイクに協力したりと、様々な形で手を差しのべている。現地調査会社Gii360によると、メキシコ国民の半数以上が、移民を助けるべきだと考えているという。自らも歴史的に米国へ移民を送り出してきたメキシコ人は、祖国での貧困と暴力、そして米国の移民政策に翻弄される者の苦難を知るからこそ、「移民危機」にできる限り人道的な対応をしようとしている。
 メキシコでも中米でも、移民の大半は、決して好き好んで祖国を離れるのではない。自分の力ではどうしようもない現実を前に、旅を決意するのだ。たとえ、その先にある世界で新たな苦難に出会っても後戻りはできないが故に、悔しさと苦しみ、悲しみを抱えながらも、わずかな光の見える方へと進んでゆく。
 移民の問題を考える時、私たちはまず、「移民」という行為の背後にある問題と自分自身のつながりを考え、理解する努力をしなければならない。そして、共に問題解決に取り組み、支え合うことを第一としなければならない。現代世界における移民の大半は、貧困や暴力などにより生きることが困難な状況にある国の出身だ。彼らの国がそうした状況に追い込まれたのは、「資本主義先進国」の私たちが築いてきた経済システムがもたらす格差と矛盾に因るところが大きい。「私が移民とならないのは、移民する彼らが私の今を支えているからだ」と考えるべきだろう。その自覚なしに、移民の問題を他人事とするのは、無知以外のなにものでもない。

工藤律子(ジャーナリスト)

工藤律子 (くどう りつこ)

ジャーナリスト
1963年大阪府生まれ。東京外国語大学地域研究研究科修士課程在籍中より、メキシコの貧困層の生活改善運動を研究するかたわら、フリーのジャーナリストとして取材活動を始める。著書に「仲間と誇りと夢と」(JULA出版局)、「ストリートチルドレン」(岩波ジュニア新書)、「マラス 暴力に支配される少年たち」(集英社、開高健ノンフィクション賞受賞)、「マフィア国家 メキシコ麻薬戦争を生き抜く人々」(岩波書店)などがある。NGO「ストリートチルドレンを考える会」共同代表。イミダスの連載「ラテンギャング・ストーリー」「ジュリアン 墓地で育った少女」はこちら!

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